雷電のチチ日記

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「利益を生まないシステムは資産として計上できない」

asahi.com:新銀行東京、109億円システム「無益」 - 社会

関係者によると、監査法人は07年3月期決算で「利益を生まないシステムは資産として計上できない」として、

ここに引っ掛かっている人がいらっしゃいますが、この箇所はこう続く。

…として、資産から109億円を減額する「減損損失」の計上を求めた。同年9月期決算でも、3月期決算以降に導入したソフトウエア2億3000万円の減損損失の計上を求めた

というわけで、監査法人のこの発言は「システムは利益を生まないので資産として計上できない」という意味ではない。これは減損会計の話である。
wikipedia:減損会計
ありゃ、Wikipediaの記述は書きかけの書きかけで参考にならない。要するに「儲からない事業に投入された資産には価値がない」ということ。
思い切り単純化するとこういうことです。不正確なのはご容赦を。


そもそも、企業が投資をするのは、その投資額を上回るリターン(儲け)を得るためである。たとえばある事業に100億円投資する場合、その事業が毎年10億円ずつ利益を生み出して10年で投資額を回収する、というような事前に絵を描いて、意思決定する。
ところが、事前の計画とは裏腹にその事業が利益を上げられず、赤字続きとなった。こうなると、いつまで経っても初期投資は回収できない。そもそも毎年10億円の利益を期待して100億円を投資したのに、言い換えれば100億円をかけた資産の値打ちは毎年10億円の利益をあげるというところにあったのに、それがないとなると100億円の資産は会社にとって何の役にも立っていないことになる。
値打ちのないものを会社の帳簿に100億円として(あたかも価値があるかのように)計上したままにするのは、非常に問題がある。100億円をつぎ込んだ資産が実際はどれだけの価値なのかを厳格に査定して、無益な資産は帳簿から落としてしまえ(その際に損失が出る)。
というのが、減損会計の考え方である。その事業が毎年2億しか利益を上げてなければ値打ちは20億ってとこだろう、まったく利益が出ないのなら値打ちはゼロだ。*1…「利益を生まないシステムは資産として計上できない」というのは要するにそういうことである。

新銀行東京の決算

ディスクロージャーのページから見られる。

平成19年3月期 決算短信(非連結)(PDF注意)

ここの4ページ(貸借対照表)に、通常の企業では固定資産に分類される「土地建物動産」「ソフトウエア」の残高が、前期末にそれぞれ11億円、97億円あったのが当期末にはゼロになっていること、
また14ページ(損益計算書)に、当期に減損損失109億円を計上していることが見て取れる。15ページの注記の4番も参照。内訳を見ると109億すべてがソフトウエアというわけではないので朝日の見出しは若干不正確のような気もするが、ソフトウエアや付随資産を含めた「銀行のシステム全体」ということなのかも知れないし、減価償却前の取得価額ベースなのかも知れない。(読売の記事で「124億円」となってるのが償却前の投資額かな?)

*1:ここでは「割引率」「将来キャッシュフローの現在価値」などといった概念は無視している